【教育留学レポート#1】ハーバードへMOOC留学して肌で感じた”教育ネットワーク”の重要性

 目次

  1. 自己紹介
  2. 現地教育活動報告
  3. 今後に向けて

自己紹介

1.名前、所属、_期生

河合道雄 京都大学教育学研究科 3期生

2.私の”教育留学”

そもそも、教育留学をしようと思ったきっかけは、グローバルな社会において日本の教育のプレゼンス(存在感)を向上させることに興味を持っていたことにさかのぼる。今日では世界的に学生のモビリティ(留学・進学での流動性)が高まっている時代であるにもかかわらず、日本の教育機関のプレゼンスは大きくないと感じることがあった。例えば、高校生たちが進学先として日本の大学よりも海外の大学を積極的に考えている話を聞いた時だ。また、国際会議に参加させてもらった時にも日本についての話題がほとんどでない(ネガティブなものでさえ)という時にも、日本の存在感の薄さを感じていた。打開策として様々な方策が考えられるが、自分はMOOC(註1)をはじめとする、オンライン教育に注目していた。

自分は、所属大学でのMOOC制作に関わらせてもらっていたなかで、オンライン教育の可能性を感じていた。MOOC制作の過程で「どうやれば世界中の生徒に自分たちの授業を理解してもらえられるか」を絶えず考えなければならないので、制作に関わる人たちの意識が変わっていく。大げさに言えば、講座制作に関わる人たちが「世界で通用するにはどうしたらいいか」を考える端緒になりえるかもしれない。これが、オンライン教育が秘めている、日本の教育をグローバルに開いていくことへの可能性である。

しかし、日本ではedXなどのグローバルMOOC(註2)に講座を提供する大学が増えたり、JMOOCの主導で日本語によるMOOCの提供が始まるなど状況の変化は起きているが、まだまだ普及は道半ばである。そこで、日本のMOOC普及のカギとなる要素を知りたいと考えて、今回の留学を志した。留学を通して、アメリカではどのような土壌のもとMOOCが広まってきたかを知り、そもそも日本の教育機関のプレゼンスを向上させるために必要なことを考えることが、私の教育留学の目的である。

 

註1)MOOC(大規模公開オンライン講座)とは、大学などの機関がインターネットを通じて、広範に提供するオンライン講座のことを指す。

註2)グローバルMOOCとは、MOOCの中でも、世界中にいる学習者を対象に、グローバルに配信することを想定したMOOCを指す。

 

現地教育活動報告

1.活動国、地域

アメリカ合衆国、ボストン

2.活動受け入れ先(組織名、学校名)

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http://harvardx.harvard.edu/

HarvardX
(リンク先:http://harvardx.harvard.edu/)

ハーバード大学の教員によるオンライン講座の制作を担当する部署。教員と協働し、カリキュラム作りから撮影、そして配信までおこなう。

受け入れについては、指導教官の紹介でインターンとして活動させていただきました。

3.活動内容

ハーバード大学のオンライン教材(MOOC)作成。具体的には、コースの企画会議や教員との会議への参加、教材のチェック、講座のベータテスト、教材の中に登場する著作権チェックリスト作成と管理をおこなった。

4.活動を通しての私の”学び”

前述したように、インターンを通して学びたいと考えていたことの第一は、「アメリカの大学ではMOOCが浸透した土壌は何か」ということであった。

まず、インターンを通して気付かされたのは、ハーバード大学がテクノロジーを使って教育を進化させる試みを重ねてきたという蓄積だった。例えば、ハーバード大学ではCANVASというLMS(学習管理システム)によって教員と生徒の間で教材やレポートをやり取りすることが当たり前におこなわれている。他にも、欠席した授業をオンライン上でチェックすることが当たり前に可能であるインフラが整っており、そのような土壌の上でオンライン教育が広がる段階に入ってきているというのがアメリカの現状だった。なにか日本でもできる即効性のある取り組みを探すつもりだったが、むしろ即効性のあるものを探すよりも、しっかりとテクノロジーを活用して教育を効果的にしていくための素地を作っていくことが重要だと感じた。

また、MOOCの制作が教員主導というのも大きな違いであった。この違いは、教材を活用するところから逆算して制作されるかどうかという違いになる。日本では、多くのコースが英語で作られているという背景もあり、制作チームが教員を探すケースが多い。しかしながら、ハーバード大学では自分の授業をオンライン化したいと考えている教員が自ら企画書を作成して立候補する。そして、教員が企画書を考えるときには必ず「どのようにMOOCを用いるか」を考えることが求められている。そのため、教員主導であるからこそ、自分のMOOCをどう教育に使うかがあらかじめ考えられており、効果的にMOOCが活用されていた。そう、教員主導のMOOC制作は、それぞれの教材について、ただ「作って終わり」ではなく、「どのように使ったら効果的か」という点を考えることにつながっていたのだ。

そして、MOOCにとどまらず、教育をめぐる状況において日米の大きな違いは、教育にまつわるキャリアパスの違いとネットワークの有無だった。自分が所属するharvardXにおいてはビジネスセクター出身の人が多く、大学教員(研究者)が多い日本のMOOC制作の現場とは異なっており、この違いが柔軟でスピード感のある運営につながっていた。この背景には、ビジネスセクターで数年働いた後に、教育大学院に入り修士号を取った後に教育分野で働くというキャリアパスが確立していることがある。この教育大学院の役割は見逃せない。ビジネスのセンスを持った人材が、1年間専門的な教育についての勉強をしつつ、最先端の教育にまつわるトピックについて学ぶことができ、同志とのつながりを得る。いわば、教育のプロフェッショナルとしてのキャリアを歩み始めるきっかけとなっていたのだ。実際に、HarvardXではハーバード大学の教育大学院を卒業した人が多い。話を聞いてみると、教育大学院の卒業生たちは民間・アカデミアを問わず色々な場所で活躍しているとのことだった。日本では、「教育のプロフェッショナル」と言うと、現場の教職員、大学教授、官僚などが想起されるだろうが、アメリカでは該当するキャリアがもっと幅広い。この層の厚みはとても大きいのではないだろうか。

教育大学院の効用は他にもある。教育大学院の授業に出てみても、アラムナイが積極的に話題提供にやってきている様子が見受けられ、そこで学生とつながりを持ち、活発な議論をおこなっていた。教育大学院を起点としたつながりは、教育のプロフェッショナルのネットワークとなっている。特に教育のプロフェッショナルのネットワークの観点でいうと、大学の部署を超えたセミナーが活発におこわれており、HarvardXとMITx(MITのMOOC制作部署)の人が互いに話題提供をしたり、最新の技術についてヒアリングに行き合ったりするなど、交流が盛んだった。また、ハーバードの公共政策大学院の研究結果をMOOC作成に活用するためにヒアリングしている場面にも同席することがあった。このような垣根を超えた盛んな交流の背景には、元来の活発な交流をよしとする文化もあるだろうが、大学院のつながりや職場の同僚だったなど、少しでもつながりがあれば、そのつながりを生かして徹底的に学んでやろうという意識があったように思う。この学びへの貪欲さが、HarvardXの質向上の原動力なのだろう。そして、その学び合いを下支えしていたのは、教育のプロフェッショナルのネットワークである。

冒頭の「どうして、アメリカの大学ではMOOCが浸透しているのか」という問いについては、テクノロジーを活用した教育改善の取り組みの蓄積、教員主導、教育にまつわるキャリアパスの違いといった要素が大きいだろう。これらの要素が積み重なり、MOOCが広がっていく文化的な土壌ができていた。

私の教育留学での”学びの価値”

現地の教育機関の現場に身を置くことで肌身を通して初めて感じられた、特に印象的であった教育のプロフェッショナルのネットワークについて、その現場に根付くある種文化のようなものを体感できたこと。

今後に向けて

今後は、教育のプロフェッショナルによるネットワークをつくっていきたい。そして、自分自身が教育のプロフェッショナルたちのネットワークのハブになることを目指したい。そのために、自分が考えなくてはいけない課題として、まず3点を考えている。

まず、日本でもビジネスのセンスがある教育のプロフェッショナルを増やしていくにはどうしたらいいかを考えなければならない。具体的には、アメリカのようにしっかりと大学院での専門的な教育を受け、また同窓生とのネットワークを作る機会ができていくことが望ましい。しかし、そのような文化が根付いていくことが可能なのだろうか。また、すぐにできるものではないので、何か大学院に変わるものを考えていかなくてはならない。

2点目は、そのようなプロフェッショナルが豊富になってきたとして、どのようにプロフェッショナルたちを自分が惹きつけられるようにならなくてはならない。そのために、まずは自身がしっかりとしたプロフェッショナルにならなくてはならず、そのために精進していかないとならない。

3点目は、これらのプロフェッショナルがつながれるようなテーマを見つける必要がある。良いコラボレーションをするためには、良いテーマが不可欠である。そのようなうまいテーマを見つけていくにはプロフェッショナルたちと継続的にコミュニケーションを取って行きながら、どのようなテーマが良いのか試行錯誤しなくてはいけない。そのための挑戦をこれからどんどんしていきたい。

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