オーストラリアからのトビタテ便り 4 ~ 憂鬱なPHYSICISTがみる太陽電池の世界

最終回「樋口とツンデレ太陽電池」

 

さて、ついに最終回です。今回は自分の研究内容についてです。

研究内容を説明したあとに、少し持論を述べて、終わりにしたいと思います。

もう、最後なんです。理系・文系・体育会系、、、誰でも見て行ってください!

 

毎週、金曜日は研究室のお兄さん・オッサンたちとサッカー

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初心者で今季初得点をあげたニューカッスルの香川(徳島出身)

初心者だけど、やっと今季初得点をあげたニューカッスルの香川 (徳島出身)

 

(1) 僕と多分野・多国籍な仲間たち(研究チーム)

さて、まずは自分の研究内容を話す前に、自分の所属している研究チームについて説明しておきます。

今、自分はUniversity of NewcastleのThe Center for organic electronics(通称:COE)というグループにいます。名前にある通り”Organic”、つまり有機材料を扱ってます。

COEの特徴として、まず比較的大きなグループと言ってもいいと思います。所属しているのは教授、ポスドク、博士の学生、その他で、人数はだいたい20人程度です。ちなみにその他とは、修士の学生と自分くらいです(笑)

また、COEには色々な分野から、人が集まっています。こんな感じです。

図17

ボスの専攻あってか、それとも部屋の空きの問題か、活動拠点はPhysics buildingになっています。

また、COEは多国籍軍団です。オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、香港、オランダ、デンマーク、イラク、スウェーデン、そして日本。色々な国、宗教が入り混じりながらも、チームとしてまとまっています。ちなみにイラクからの博士課程の学生が数人いて、彼らがアラビア語で会話するので、ラボでは毎日のようにアラビア語をきいてます(笑)

そんなCOEのラボ事情なんかを書いてもいいですが、まあメインはそこではないので気になる方はご一報を。とりあえず、自分のいた日本の研究室とはかなり違います。

 

(2) 樋口とツンデレ太陽電池(研究内容)

ちなみにツンデレ太陽電池という種類の太陽電池はありません(笑)さて、ここから研究内容です。いったい自分がどういったことをやっているのかを説明していきたいと思います。

始めにざっくり研究内容を説明して、そこからそれに関する専門的な内容を説明します。

まず、大前提として自分の研究しているのは有機薄膜太陽電池です。え、なんだっけ?と思われた方は第三回をご覧ください!

 

さて、自分の研究題目ですが、英題では

The effect of various surfactants on nanoparticles for organic photovoltaic applications”

日本語では何と言うべきでしょうか。「様々な界面活性剤を用いたナノ粒子を使った有機薄膜太陽電池の研究」みたいなタイトルになるでしょうか。

ちなみに有機材料にはポリマー材料を用いています。

界面活性剤?ナノ粒子?ポリマー?そもそもタイトル格好つけてない?と、頭の中に?マークが浮かんだことだと思います。ではそれぞれ順に説明します。

 

2-1 すごいぞ、ポリマー材料

まず、ポリマー材料から説明します。これは物理ではなく、もろ化学の内容になります。なので、詳しくは化学屋さんに聞いてください(笑)

さて、ポリマー(重合体)とは、複数のモノマー(単量体)が重合する(結合して鎖状や網状になる)ことによってできた化合物のこと。[1] ケンカ売ってんのか?って話なのでもう少し詳しく説明します(笑)

図18

上図のようにモノマーは1個の化合物なのに対して、ポリマーはそのモノマーが連なっています。また、それが何個も重なっている。これを重合といいます。この重合が多いと高分子と呼ばれるようになります。ちなみに高分子の物質は身の回りにたくさんあります。例えば、プラスチックもそうだし、たんぱく質もそうです。余談ですが、オーストラリアの紙幣はプラスチックなので選択しても大丈夫です!

さて、自分が太陽電池に使っている半導体も有機半導体ポリマーと呼ばれるものです。どういう物質かというと、こちらです。[2] 図19

このP3HTとPCBMはよく有機半導体の材料として使われていて有名です。彼らがすごくいい働きをしてくれるんです。

 

2.2 小さいけど大きなポテンシャル、ナノ粒子

次は、ナノ粒子です。聞こえが小さそうですよね。そうなんです!ナノ粒子は実際に小さいんです。

まず、ナノ粒子とは1~100nm程度の大きさの粒子です。ちなみに1nm=10-9mです。何乗とかわからない?1mの10億分の1の大きさです。それでも大きさの想像つかない?では、こちらの画像をご覧ください。[3] photo_data_01_01

こんな感じです。

このナノ粒子は英語で表現するなら、Interestingです。本当におもしろい。物質がナノサイズになることで物理的な特性が変わったりします。そんなナノ粒子は色々な場面で使われています。[3] 1

そんなわけで、自分もこのナノ粒子を太陽電池に応用する研究をしています。

では、何をナノ粒子にしているのかというと、それがさっき取り上げた有機半導体ポリマーのP3HTとPCBM。これをある手法を使って、ナノ粒子にするんです。

そして、その過程で界面活性剤というのを加えないといけません。次にその説明をします。

 

2.3 界面活性剤「オレみたいな働きできるって就活で言っちゃいなよ。」

界面活性剤とは親水基(水に馴染む部分)と疎水基(水になじみにくい部分)でできている物質の総称です。形はこんな感じです。

図20

この界面活性剤は日常で、普通に使われています。汚れを落とすという目的で、シャンプーや洗剤に入っています。あのぬるぬるするのは、この界面活性剤によるものなんです。

さて、この界面活性剤が自分の作るナノ粒子で、非常に重要です。界面活性剤の仲立ちのおかげで、ナノ粒子を作り、それを水に溶かすことができます。

そして、この界面活性剤というのには、色々な種類があります。自分の研究は色々な界面活性剤を使って、その変化をみるのが目的です。また、界面活性剤の量が多いと、ナノ粒子の大きさも小さくなります。それを5種類くらい量を変えて、色々な測定をしてます。

 

2.4 20時間クッキング、ナノ粒子の作り方

さて、今日の20時間クッキングはナノ粒子を作り方です。非常に皆さん、レシピの方が気になると思います。メモを取り忘れないようにしてくださいね。

それではまず材料です。以下のものを用意してください。

P3HT:適量 PCBM:適量 界面活性剤:適量
クロロホルム:適量 水:適量

 

水は蒸留水という純度が高く、きれいなものを使用してくださいね!また、クロロホルムは非常に揮発性の高い液体ですので、直接臭いをかがないようにしましょう。

①まずP3HTとPCBMが入った瓶にクロロホルムを入れて、かき混ぜていきます。混ぜるのは機械に任せて、放っておきましょう。

②この間に、界面活性剤を水に溶かす準備をしましょう。と言っても、①と同じように界面活性剤に水を加えて、かき混ぜるだけです。

③さて、機械がかき混ぜ始めて、一時間後になりました。ではこの二つの溶液を混ぜ合わせます。すると、こうなります。

図22

クロロホルムの層にはP3HTとPCBMが、水の層には界面活性剤があります。そしてここから、かき混ぜるスピードを上げて、さらに1時間置きます。

④1時間が経ちました。今、溶液はどんな状態かというと、こんな感じです。

図23

界面活性剤によって、P3HTとPCBMは固まって、大きな粒子になります。ですが、これはまだまだナノサイズというには大きすぎます。ここから、小さくしていきます。

⑤ さて、次に超音波ホモジナイザーというもので、超音波を加えていきます。

図24

なんということでしょう、あんなに大きな粒子が小さい粒になったではありませんか。そうなんです、超音波によって粒子が小さくなります。

⑥ここから、一晩かき混ぜながらおきます。これによって、クロロホルムを蒸発させます。

⑦さあ、一晩寝かせました!クロロホルムもなくなったし、次に取り除くのは界面活性剤です。「え、界面活性剤取り除いちゃうの?」と思うかもしれませんが、もう用無しなんです。ましてや、残しておくと太陽電池の発電で邪魔になるので、取り除きます。さて、どう取り除くかというと、遠心分離機というものを使います。これで遠心力で透析して界面活性剤を取り除きます。

さて、透析が終われば完成です!どんなものかというと、インクのようになります。

図25

こんな感じで、右が拡大したものになります。ちゃんと、きれいな粒になっているんですね。

 

2.5 ツンデレな太陽電池を作ろう

続いては、自分の作っている太陽電池についてです。

 

まず、構造はこうなります。結構、複雑な構造になっていますよね。

図26

いわゆるp-n接合しているのがP3HT:PCBMになります。そして、ITOは陽極でアルミニウムが陰極の役割をします。では、PEDOT:PSSとカルシウムは?というと、彼らは挿入層と呼ばれるものです。第二回でやりましたが、P3HTとPCBMで励起子が解離してできた電子とホールが、それぞれ陰極と陽極に向かっていかないといけません。その際に、スムーズにそこまで運んでくれる役割をします。

さて、太陽電池の作り方ですが、案外シンプルなんです。もともと、ガラスにITOがついているITO基板というものがあって、そこにPEDOT:PSS、P3HT:PCBM、カルシウム、アルミニウムと、順に層(薄膜)を重ねていくだけです。

その薄膜の作り方には塗布法と蒸着法の2通りあって、それを説明しておきます。

① 塗布製法

塗布製法とは、有機溶液を基板に塗布して、スピンコータ―などで高速回転させて薄膜を作る方法です。よって、必ず製膜する物質は液体である必要があります。

図28
実際に研究室にあるスピンコータ―

実際に研究室にあるスピンコータ―

 

②真空蒸着法

そして、二つ目が蒸着装置を使った真空蒸着法です。これは真空状態(圧力が限りなく0に近い状態)で、物質が昇華する(気体になる)まで熱を加え、基板に蒸着する方法です。ちなみに自分が学部生のとき、太陽電池はこの蒸着法だけで作製していました。また、オーストラリアの研究室にある真空蒸着装置と日本の研究室のでは、かなり違います。今の研究室にあるのはかなりのハイテク。日本で5時間かかる作業を二時間半ぐらいで終わらせられます。

 

そんなわけでこの二つの方法を使い分けて、太陽電池を作ります。PEDOT:PSSとP3HT:PCBMは塗布製法で、カルシウムとアルミニウムは真空蒸着法で製膜して、有機薄膜太陽電池を作っていきます。けれど、おもしろいのはここから。実は本当にこの太陽電池は作るのが難しいんです。同じ構造で同じプロセスで太陽電池を作っても、いい変換効率が得られるもの、得られないものがある。まるで個性があるかのようです。作る人によっても、初めて作れば基本的に低い変換効率のものができてしまう。プロセスは言われた通りなのに、不思議なものです。

そして、自分の作る太陽電池は本当にツンデレ。太陽電池で良い変換効率が得られないと、やっぱりショックなんです。ある意味で、1日が無駄になった気がして。そして、それが2週、3週と続くと、「オレって研究者のセンスないんじゃないのか?もう、将来は研究するのやめようかな」と迷いが出てくる。で、このまま続けば諦めがつくんですが、そういうときに限って、驚くような変換効率を記録したりするんです。そして、「しんどいけど、もう少しやるか」と、続ける気持ちになる。こんなことの繰り返しなんです。

実際に自分が作る太陽電池

実際に自分が作る太陽電池

 

2.6 変換効率を求めてみよう

一番基本的な変換効率の測定を説明しておきます。これをI-V測定と呼んでいます。これはいたって簡単で、太陽電池に地表に届いている光と同じ光を当て、それに電圧をかけていきます。そのときに流れる電流を測定する方法です。すると、こんなグラフが得られるんです。

図27

この得られた曲線をI-V曲線といいます。このI-V曲線の電流と電圧の面積が一番大きいところの電流を短格電流、電圧を開放電圧といいます。そして、ここから変換効率が求まります。何気なく初めて式が出てきたような気がしますね。変換効率:ηを求める式は上図の通りです。何気なく、式が出てくるのは初めてな気がしますね(笑)

 

2.7 研究内容とその成果(9月末段階)

最後に今の段階での自分の研究内容を言える範囲で伝えておきます。とりあえず、最初にも言ったように、色々な界面活性剤を使ったナノ粒子の違いを見ているわけです。

どんなアプローチをしているかというと、もちろん太陽電池を作って変換効率みるのが主です。ちなみに一番高かった変換効率は0.7%でした。同じ材料でもナノ粒子にせずにバルクヘテロ型で太陽電池を作った場合の変換効率3%と比べると、まだまだ低いです。

また、変換効率の他にも、ナノ粒子の大きさや膜の表面はどうなっているのかなどの形態を調べたりしてます。

 

研究内容を含め、太陽電池に関する話は以上で終了です!第四回は非常に専門的な内容になってしいました。もし、気になる方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。できる範囲でお伝えします。

 

(3) 最後に

さて、少しだけ持論みたいなものにお付き合いください。

 

3.1 研究者は基本的に悪

ほんの少し、自分の考えを書かせていただきます。自分を憂鬱にさせるもの、その1つは罪悪感です。正直、自分を含め研究をしている人のほとんどはだと思います。

ある時、オーストラリアの研究室で、ポスドクが小さなプラスチック容器を片手に自分にこんな質問をしました。「しんや、このマテリアルの値段はいくらだと思う?」と。それはたった50g程度の量のもの。でも、その値段はおよそ5万円。さらに彼女はこう言いました。「研究室にあるものは何でも高い。だから、決して無駄にしてはいけない」と。そう、研究とはそういうものなんだと思います。特に理系の研究室なら、研究費はとても莫大です。

そんな自分も写真で見せた太陽電池を1度に16枚作ります。1枚あたりの値段がいくらかは定かではありませんが、お金は確実にかかっています。そして、それらはいくつかの測定を終えれば用無しで、全部捨てられます。さらに自分たちの作る有機太陽電池の変換効率は高くて3%。無機太陽電池の20%に比べたら本当に小さい。けれど、それを4%、5%にあげるのに必死なんです。

そして、研究しながらこんなことを何度も思います。「こんな実用性があるかもわからない太陽電池に莫大なお金を使ってまで、研究の意味があるのか?それなら、アフリカの子供にワクチンでも買った方が、よっぽど社会に貢献できるじゃないか。」と。さらに研究者は。すごくがんばって、革新的なものを生み出しても、それが人を殺す兵器に応用される可能性だってある。もちろん、将来が云々と言っていては、研究なんかできないので、きっとどこかで役に立つと信じてやるわけですが。

それなら今すぐ働いて寄付すれば?と思うかもしませんが、自分はそれができません。なんだかんだ、研究は楽しいし、もっと色々なことを知りたいと思ってしまう。そして、そこに罪悪感が生まれている。自分は悪いことをやっているからこそ、手を抜かずにやらないといけないし、結果を出さないといけないと思うんです。

オーストラリアに来て、研究者に限らず、誰にでも適度な罪悪感は必要だと思いました。

捨てられる運命の太陽電池たち

捨てられる運命の太陽電池たち

3.2 謝辞

最初に、トビタテ発信局の編集長の宮本まどかさんに感謝いたします。8月に自分がいきなり、トビタテ便りの連載を書きたいと言ったことを快く承諾していただきありがとうございました。編集等もありがとうございました。宮本さんの今後のご活躍を期待しています。

そして、トビタテ便りをご愛読くださった方にも感謝しています。複雑な内容に踏まえ、自分の説明下手もあってわかりにくい部分が多かったと思います。もし、少しでも太陽電池に興味を持っていただけた方がいらっしゃいましたら、光栄です。

 

最後に、このトビタテ便りを最初書くときは、不安でした。きちんと書けるのか、期限は守れるのか、と。けれど、書きながら改めて太陽電池の魅力に引き付けれるとともに、太陽電池を勉強し直すいい機会になりました。

本当にありがとうございました。

 

質問、感想等がありましたら、お気軽にご連絡ください。

引用・参照リンク

[1] Wikipedia 重合体 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8D%E5%90%88%E4%BD%93

[2]  Matsumoto, Fukashi, et al. “Synthesis of thienyl analogues of PCBM and investigation of morphology of mixtures in P3HT.” Beilstein journal of organic chemistry 4.1 (2008): 33

[3] 株式会社アイテック http://www.itec-es.co.jp/rd/data_01.html

[4] Gemini BV https://tobitate-community.jasso.go.jp/ct/home_collection

オーストラリアからのトビタテ便り 1 ~ 憂鬱なPhysicistがみる太陽電池の世界

オーストラリアからのトビタテ便り 2 ~ 憂鬱なPhysicistがみる太陽電池の世界

オーストラリアからのトビタテ便り 3 ~ 憂鬱なPhysicistがみる太陽電池の世界

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