イギリスからのトビタテ便り(了)〜人体最大の臓器〜

本日の更新はイギリスからのトビタテ便り(了)〜人体最大の臓器〜です。一ヶ月間の連載を飾るのも、やはり皮膚についてのお話です。

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

6月のトビタテ便りは2人のトビタテ生に書いてもらっています。本日の便りは、イギリスから。ロンドンの研究グループで薬学の最先端を押し広げるべく研究した間祐太朗さんから届いています。

今までの連載 1 2 3

とある路地に入ると。。。 ロンドンの家はいちいちおしゃれ

とある路地に入ると。。。
ロンドンの家はいちいちおしゃれ

前半部

さて、先週までの便りでは、皮膚バリアについて簡単に記述してきました。

最後の便りでは、化学物質がこの皮膚バリアを超えて、効果を発揮する、つまり、皮膚を介した医薬品の適用に関するお話をしたいと思います。

まず、皮膚に適用する医薬品には大きく分けて、2種類あり、1つは皮膚に存在する血管から薬物を全身に送達させ、薬効を発揮させる“全身作用型製剤”と、2つ目に適用部位である皮膚もしくは、皮下にある筋層など、ある部分のみでの薬効の発揮を期待する“局所作用型製剤”があります。

この二つ、あくまでも期待する薬の効き目がどこであるかに起因して区別されるだけです。どちらの医薬品も適用部位は当然“皮膚”です。皮膚に適用された化学物質は、皮膚表面に適用し、皮膚に浸透し、また浸透していく過程で皮膚の真皮層に存在する血管に取り込まれます。期待される作用、主作用が皮膚や皮下の局所部位なのか、血管から取り込まれた先の全身なのか、による違いです。

医薬品の主作用を最大に発揮させるためには、その化学物質が、“その部位”に“どれくらいの時間”、“どれほどの量”存在するかを制御する必要があります。薬効を働かせたい部位に送達したとしても、作用を発揮できるだけの量が、働いて欲しい時間その場所に留まっているもしくは次々と運ばれてくる必要があります。

つまり、化学物質の皮膚を浸透・透過する速さ、“皮膚透過速度”を制御することができれば、上記の目的が達成され得ます(実際には物質が消失する速度も考慮する必要があります。なぜなら、運ばてくる速度と、失われていく速度の正味で、存在量が決定されるためです。しかしながらここでは、割愛します)。

これまでの便りで、皮膚はバリアとして働き、中でも皮膚の最外層、死んだ細胞が積層して形成される“角質層”であることを述べてきました。一般的に、この角質層こそが、物質の透過速度を決定づける因子です。すなわち、角層の透過過程が律速段階となるわけです。

皮膚を物質がどのような経路をたどり透過するかというと、それには、2つのルートが存在します。毛穴や汗が分泌される汗孔などの皮膚の付属器官を通る“付属器官ルート”と角層を介する“表皮ルート”です。この付属器官ルートは、角層バリアを介さずに皮膚に浸透することが可能ですが、皮膚表面積に占める付属器官の面積が極めて小さい(0.1%程度)ため、皮膚透過における付属器官ルートの寄与は小さいと考えられます。表皮ルートはさらに、細胞自体を浸透する“細胞ルート”と細胞と細胞の間を通る“細胞間隙ルート”があります。そして、主に、細胞実質を透過するよりも、細胞の間を通ることで皮膚を透過していくと考えられています。

前回にも述べた通り、角質細胞間には、水相と疎水相を形成する細胞間脂質の存在があります。そのため、脂溶性の物質は、疎水相近傍を介して、また親水性の物質は水相近傍を介して、間隙ルートを透過していきます。ただし、角層全体を見ると、角質細胞実質や、皮膚の脂腺から分泌され形成される皮脂膜の存在も手伝って、全体的に脂溶性が高いため、脂っぽい物質の方が皮膚を通りやすいとされています(シャワーを浴びたとき皮膚は水を弾きくが、例えば食用油や乳液のような脂っぽいものが皮膚に馴染む経験をされたことがあるはず)。

物質が皮膚に浸透する主な経路である間隙ルートを通る際、物質の脂っぽさ、水っぽさというだけでなく、その物質の大きさも非常に重要になってきます。当然、物質のサイズが増大すると、透過する際の抵抗が大きくなり、物質の透過速度が遅くなります。角層は、皮膚の基底細胞が分化・分裂して最終的に死んだ細胞からなる層です。この角質細胞層は、1日に、1層皮膚から落屑します。そのため、角層の厚み分だけの距離、1日で透過する速度にない物質は、皮膚を透過することが不可能と考えられます(角層1層分の厚みは約1 µmであるため、物質の線速度が約1.2×10-9 cm/sec未満であれば透過しない、落屑速度>物質透過速度)。

これら、物質の物理化学的性質を変えることで、皮膚における透過速度ある程度予測・制御することは可能です。しかし、これは、あくまでも適用する物質の性質い依存することに注意してください。適用される側の性質、すなわち皮膚の状態が変わることがあれば、その透過速度に影響が及びます。例えば、角層の厚みや細胞間脂質の組成や存在量、細胞間脂質に取り込まれている水分量などの違いなど、いくつもその影響因子を挙げることができます。これは、単に個人差、人種差、性差だけでなく、個人内の身体の部位差など、多様に観察されます。

また、その個人が、皮膚に関する疾患を患っていた場合、その病態によって、さらにその物質の皮膚透過への影響は複雑になってきます。角層を含む表皮の構造やその構成の変化だけでなく、物質を取り込む皮膚内部の血管の変化なども考慮しなければなりません。

皮膚は外部から身体の内部を守るバリアであるとともに、医薬品の適用部位となります。みなさんは、塗り薬、貼り薬を使用されたことがあると思います。ここまで、話してきました通り、皮膚と一口に言ってもその構造は複雑で、また精巧にできています。ただ、その“状態”は様々であり、皮膚に適用する化学物質(医薬品)の効果を最適化するためには、その状態に即した開発や適用法が重要だと思います。

将来的には、皮膚を利用した薬物療法も、個人の皮膚に合わせたオーダーメード式になるのはないでしょうか。ちなみに今更ですが、私は、この皮膚の生理状態と薬物の皮膚内部での動きに関する研究を行っています。興味がありました、ご一報いただけたらと思います。

夜のテムズ川に架かるタワーブリッジ

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後半部

留学中における気づきとして、最後あげるなら、『やっぱり、実際に留学して体感しないとわからない』ということです。最後の最後に投げやりかと思うかもしれませんが、決してそうではありません。日本にいても、インターネットを使えば日本国外の現地の言葉で現地の情報が得られます。ただ、あくまでもそれは、自分ではない第二者、第三者からの情報です。現地で、自身が体感することでしか理解できないもの、また、感じ得ないものがあると思います。それは、一般化できるものでなく人それぞれです。言語化できない自己の感性で、ぜひ世界を知っていただければと思います。

最後に

稚拙でまとまりのない文章ではありますが、4週に渡ってお付き合いいただき、ありがとうございました。また、毎回の投稿が期限ギリギリで、編集長には大変にご迷惑をおかけしましたが、広い心で見守っていただき、改めまして感謝いたします。

お世話になった地下鉄

お世話になった地下鉄

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