リンツからのトビタテ便り2 −ドナウ川の畔で宇宙を考える

ホホウ! 本日の更新はリンツからのトビタテ便り2 −ドナウ川の畔で宇宙を考えるです。「宇宙そのものは自然の状態であり芸術ではないが、人間が宇宙のリズムと共振することで〜」ファッ!?一体何を言っているホホウ!? 読むしかないです。

トビタテ便りとは

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

6月のトビタテ便りも3人のトビタテ生に描いてもらっています。書いて頂いたのは田中ゆりさん。本日の便りは宇宙芸術。最早その言葉からはどんなものか想像もつきません。その好奇心を満たすためには、この記事を読むしかなさそうです。

これまでの連載記事 

第二章:宇宙芸術と創造

宇宙芸術とは何だろうか。前章の思惟につづき、本章では、自身の研究テーマないしライフワークである、宇宙芸術の研究実践について述べたい。

まずは宇宙芸術という言説を巡る系譜から考える。1936年、ハンガリーの詩人Charles SiratóらはThe Dimensionist Manifest[i]において四次元の物理的概念を芸術に汲み入れ、’L’Art Cosmique (cosmic art)’という言葉を用いて新たな芸術のあり方を提唱した。一方、1989年、宇宙物理学者、サイエンス&アートの季刊誌Leonardoの編集者であるRoger Malinaによって、宇宙開発の枠組みからspace artの定義[ii]が提示された。その後、俯瞰的な宇宙の視点から広範な芸術のあり方を追究するため、2013年に美術家の逢坂卓郎によっても仮説[iii]が示されたが、体系化された哲学や思想はほとんど見当たらない。さらに、space artやcosmic artという言葉も曖昧に使われている現状もある。

そこで、自分の研究では包括的な宇宙の視点からの宇宙へアプローチするとともに、新たな宇宙芸術の思想の枠組みを構築している。現在は国際宇宙連盟(International Astronautical Federation)を通じて出会った世界各地のアーティストやエンジニアなどあらゆる領域を超えて協働し、世界初の宇宙芸術をテーマとした一般書の執筆や編集を進めている。
また、私たちが提唱しようとしている宇宙芸術は、人間が生命の視点から宇宙の真理を直観や経験から汲み取り、宇宙、生命、芸術の連関を観得し、意識的に表現していく芸術の本質的なあり方である。宇宙そのものは自然の状態であり芸術ではないが、人間が宇宙のリズム[iv]と共振することで真理の一片に近づき、宇宙を人為の芸術表現に変容していくことで、宇宙は宇宙芸術へと昇華することができるのではないかと考えている。なお、これらの取り組みは作品の分類を目的とするのではなく、未来の多様な芸術の創造に向けた試みである。

そして、私は理論と実践の往復しつつ、キュレーションやメディエーションとよばれる、企画のコンセプトや枠組みなど、全体をつなぐ立ち位置から芸術実践を行っている。映画監督と似たような役割、というと理解し易いかもしれない。それは芸術界だけでなく、宇宙航空研究開発機構(JAXA) をはじめ、科学技術者、職人や地域の人々とともに協働を通じて総力で活動を編み上げる、とても刺激的な生業である。ことに、誰しもがなんらかの形でつながりうる「宇宙」という共通項によって連帯できることも、宇宙芸術ならではの醍醐味でもある。

また、昨年は所属する環境芸術学会を母体とした宇宙芸術研究部会という研究チームも設立し、楽しく本気で活動している。多様な背景をもつ人々と協働できるということは、本当に素晴らしい。
余談だが、ちょうど今月当学会の共著で『アートプロジェクト・エッジ:拡張する環境芸術のフィールド』と題される書籍が出版された。宇宙環境から身体環境まで、多様なアートプロジェクトが紹介されている。ご興味のある方は、お手にとってご覧いただければ幸いに思う。

しかしながら、宇宙芸術という確固たる存在や領域があるわけではない。宇宙芸術にどのようなものがありうるか、イメージすることはなかなか難しいかもしれない。そこで、これまで自分の関わってきた具体的なプロジェクトの事例を紹介することで、想像の一助となればと願う。

fig.1.「SPACE ART LOUNGE(宇宙芸術ラウンジ)」メインビジュアル(宇宙科学技術館(種子島宇宙センター内), 2012)

たとえば、種子島宇宙センターで開催した<宇宙芸術ラウンジ(fig.1)>、<わたしと宇宙展>での出展など屋内企画だけでなく、近年中に開催を予定している種子島宇宙芸術祭に向けたアートプロジェクト(fig.2)、瀬戸内の直島で町やアーティストと協働した<直島の月(fig.3)>など、広大な地域を舞台に各地でさまざまなアートプロジェクトに携わっている。

なお、これらはほんの一例であり、歴史的な作品やその他の事例などはブログの特性上紹介することが叶わず恐縮の限りだが、別途論文や著書、展示などを通じて伝えていきたい。

 

 

fig.2「宇宙を平和にするロケットをつくろう」(宇宙ヶ丘公園, 種子島, 2012) photo: Koichi Sakaguchi

fig.2.「宇宙を平和にするロケットをつくろう」(宇宙ヶ丘公園, 種子島, 2012) photo: Koichi Sakaguchi

宇宙芸術の研究実践は世界的にも非常に少ない。しかし、それは同時に未来を切り拓いていく可能性を秘めていることを示唆する。宇宙平和を目指し、宇宙芸術を通じて宇宙や芸術を誰しもが身近に感じられる時空を創出していくことに、これからも命を懸けていきたい。

fig.3 伊藤隆治「直島の月」(宮浦港かぼちゃ広場, 直島町, 2013 )©Takaharu Ito

fig.3. 伊藤隆治「直島の月」(宮浦港かぼちゃ広場, 直島町, 2013 )©Takaharu Ito

宇宙は謎に満ちている。
そして、宇宙は至上の好奇心と創造の源泉である。


[i]
cf. Charles Sirató, “The Dimensionist Manifesto” in Le Revue N+1, Paris, 1936.
[ii] ars astronautica, http://www.arsastronautica.com/article.php?news_id=6(最終閲覧日:2015年6月1日).
[iii] 逢坂卓郎『光を基盤とするコスモロジーと宇宙芸術』(学位論文:[芸術学博士] 筑波大学, 2013), pp.195-196.
[iv] cf. Ludwig Klages『表現学の基礎理論』(千谷七郎訳)勁草書房, 1964.