ストラスブールからのトビタテ便り1 -哲学者は役に立つ日の夢を見るか-

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ホホウ! 本日の更新はストラスブールからのトビタテ便り1 -哲学者は役に立つ日の夢を見るか-です。今回のお話は「そもそも何かを役に立つか否か評価するための前提とは何か」についてです。

トビタテ便りとは

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

6月のトビタテ便りも3人のトビタテ生に描いてもらっています。本日の便りは、政治哲学の中川さんから届いています。「哲学って役に立たないよね」という人にこそ読んでほしい連載です。

はじめに

6月の連載を担当する中川です。僕はフランスの政治学院に留学し、政治経済哲学を軸に国際法、国際政治、国際経済といった分野を学んでいます。具体的には国際倫理、世界正義と呼ばれる領域を研究しています。
今回の連載で哲学一般を語るには僕の力が及ばないので、自分の専門である「政治哲学」が一体どんなものなのかをお話させていただきたいと思いますのでどうぞよろしくお願い致します。

問いを明確にする

さて、早速「哲学は役に立たないよね」という問いを考えるためにはその言葉の意味を明確にしなくてはいけません。この場合ですと「哲学」と「役に立つ」とは何を指し示しているのかを規定しなくては回答不可能です。哲学については後述するとして、本日の連載では「役に立つ」ということについて考えていくことにしましょう。

役に立つ、ということ

役に立つということを考えるためには、まず身近な「役に立つもの」を取り上げてみるのがわかりやすいでしょう。

1.例えばスプーンは役に立ちます。スープを飲むときにも、あるいはアイスクリームを食べるときにも非常に便利です。

2.ジスプロシウムは役に立つでしょうか。唐突なカタカナ言葉と出会った場合あなたはどのように答えるでしょうか。恐らく最も誠実な答えは「その言葉を知らない」だから「役に立つかわからない」になるでしょう。(ちなみにジスプロシウムはレアアースらしいです。その響きだけで、素人ながらとても役に立ちそうだと思いました)

3.スプーンに立ち返ってみましょう。あなたは広い草原で迷子になっています。持っている物はたった一つのスプーン。目の前にはお腹を空かせた可哀想なライオンの親子。子ライオンが久しぶりのご飯にありつけるねと、はしゃいだ様子で親ライオンに甘えているのを想像してみましょう。残念なことに、そんな場合にはスプーンは役に立たないという結論を導かざるを得ません。

大学寮で飼われている丸い猫です。

大学寮で飼われている丸い猫です。

役に立つかどうかを評価するための前提

さて、上記の内容をまとめてみましょう。
1.「スプーン」は「スープを飲むときなど」に役に立ちます。
2.「ジスプロシウム」は「それが何であるか」がわかれば役に立ちそうです。
3.「スプーン」は「ライオンに食べられる瀬戸際」では役に立ません。

ここから2つのことを導き出してみましょう。A「それが何であるかわからないと評価が出来ない」ということと、B「それが何の目的で使われるのかわからないと評価が出来ない」ということです。

哲学は役に立たないのか

早速先ほど導いたAとBの考えを哲学に適用させてみると、A.「哲学が何であるか」そして「哲学が何の目的で使われるか」がわからない場合はそもそも「評価することが出来ない」ということがわかります。

ジスプロシウムと聞いて、即座に「役に立たない」と言う人はいないでしょう。それが何なのかわからないからです。ライオンと対峙するときにスプーンが「役に立つ」という人もいないでしょう。スプーンはその状況ではその目的/特性(持ち手があり、丸みを帯びて液体などを掬うのに適した形をしている)が活かされないからです。

それなのになぜ哲学は「役に立たない」という評価を行うことが可能だと考えられてしまうのでしょうか。僕はいつも不思議です。文学や芸術もよく言われているように思います。時にはプロを目指さないスポーツも、義務教育や大学教育も。もしかしたら、お金や恋愛、旅行やギャンブルも。僕たちは何かを「役に立たない」と評価する時、本当にこの前提を満たす程度にその対象を知っているのでしょうか。

こちらは小さい方の猫。目つきが鋭いです。

こちらは小さい方の猫。いつも変な姿勢です

今後の連載の予定

さて、今回の連載では「そもそも何かを役に立つか否か評価するための前提とは何か」について簡単に自分の考えをお伝えさせていただきました。第二回は「何かを選択するということ」についてお話しします。予定では、第三回の記事にて「哲学とは」という問いかけに一部答える予定です。

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現在トビタテ生30人と協力して、知の見取り図プロジェクトを進めています。様々な分野で本気で勉強している人が作る本棚を公開・共有するサービスです。簡単な本から難しい本まで読む順番も含めて紹介してくれるので、何か新しいことを学びたいと思った時の、その一歩目のハードルを大きく下げることが出来ます。実現間近なので気になる人は是非見て欲しいです。

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ABOUTこの記事をかいた人

NakaEi

トビタテ一期生。政治哲学と国際政治を学びにフランス政治学院に留学。「知の見取り図」代表、「トビタテハウス」管理人。人権保障をテーマに様々な活動をしている。2016年5月には東洋大学にてゲスト講師として政治哲学×移民に関する講義を行った。知の見取り図(http://mitorizu.jp)、トビタテハウス(http://www.tobitate-house.com)