フィンランドからのトビタテ便り2〜もうひとつの最先端〜

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本日の更新はフィンランドからのトビタテ便り2〜もうひとつの最先端〜です。今回は彼の専門でもある「適正技術」について具体的な例をあげながら説明してくれます。科学と開発のマッチングの妙を要チェック!

トビタテ便りとは

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

5月のトビタテ便りは3人のトビタテ生に書いてもらっています。本日の便りは、フィンランドで開発と工学の紡ぐ新たな地米を目指している田岡祐樹さんです。

第一回連載はこちら

本文

もうひとつの最先端技術:本当に必要とされているもの

前回の記事で、今の世界とこれからの世界について簡単に紹介した後、モノを送るだけでは上手くいかない例を紹介しました。今回は、「もうひとつの最先端技術」の概要について説明した後に、「問題解決型ものつくり」の具体的な事例について説明したいと思います。

 2-1適正技術 (Appropriate Technology)

「適正技術」という言葉をご存知でしょうか?漢字の通り、「適正」な技術を作ろう。という技術思想です。ここでは簡単に、適正技術について説明したいと思います。適正技術はもともと、中間技術(Intermediate Technology)という言葉でドイツの経済学者であるE.F. Schumacherによって1960年台に提唱されました。[1]戦後復興に際し、資本集約型の近代技術が成功しないことから、「資本集約型の技術」と「未開の技術」の間にある「中間の技術」が雇用を生み出し、発展に寄与するとしました。その後、中間技術の特徴は4つの点に代表されるようになります。

  1. 小型
  2. 単純
  3. 安価
  4. 非暴力

しかし、「中間」であることは、必ずしも効果的であるとは限りません。例えばペニシリンは非常に有名な抗生物質でいずれの国にも適正な技術(かわりになる技術がないため)であるが、「中間」技術という定義には当てはまりません。その後、より適正に思想を反映するために、適正技術という言葉が利用されるようになりました。[2]様々な言葉で「適正」が定義されていますが、ここではUTB Japan[3]から引用して、以下のように定義したいと思います。

コミュニティーの多くの人が必要としている

持続可能性を考慮した原材料、資本、労働力を用いる

コミュニティーの中で所有、制御、稼働、 持続が可能である

人々のスキルや威厳を向上させることができる

人々と環境に非暴力的である

社会的、経済的、環境的に持続可能である

なんだか非の打ち所がないような定義です。しかし実際の社会には大きな影響を与えられずにいました。その理由について、Paul Polak[4]、ウェブサイト上で、「適正技術は終わった」[5]とのタイトルで、記事を書いています。

The appropriate technology movement died peacefully in its sleep ten years ago (注 2010年に書かれています). […]What happened? How could such an inspiring movement with deep spiritual meaning have produced so little in the way of practical impact? The appropriate technology movement died because it was led by well-intentioned tinkerers instead of hard-nosed entrepreneurs designing for the market. […] Sadly, far too many of the tools developed by the appropriate technology movement are far too expensive to be affordable to the customers for whom they are intended.

技術的な理想や、実際に設計する人の理想を中心においた結果、必要としている人が購入するには値段が高すぎました。結果的に、理想とは裏腹に普及しませんでした。

時を同じくして、Design for the other 90%[6]という展覧会が米国で開催されます。「残り90%のためのデザイン」と銘打たれた展覧会では、『消費社会にあふれる「もの」とは少し異なる、世界を変えるための「もの」』が展示されました。タイトルは、当時の人口の90%は、私たちの多くにとって当たり前の製品やサービスを利用することはなく、さらにその約半分は、食糧や、きれいな水、家さえ満足に得られない。そんな人々へのデザインという意味が込められています。

2-2もうひとつの最先端

さて、長々と説明してきたので、具体的な技術例を見て行きたいと思います。

2-2-1ソーラーランタン

突然ですが、電気がない地域ではどうやって夜に生活していると思いますか?

日本だと、スマホのライトや懐中電灯といったところでしょうか。彼らは写真のような「灯油ランプ」を利用しています。ロウソクをイメージしていただけるとわかりやすいかもしれません。[7] この灯油ランプいくつか問題をはらんでいます。
* 火事の危険性
* 煙による健康被害
* 灯油が高価であること
どうしたものでしょうか。

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灯油ランプ 写真引用[7]

ところで、LEDライトご存知でしょうか?消費電力がとても小さい「電球」ですね。

太陽光パネルご存知でしょうか?太陽光で発電できるパネルですね。日本だと、大きなパネルで発電していますね。
知ってるよ馬鹿野郎。はい。2つを一つにしてみるとどうなるでしょうか。

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D-light [8]

とても簡単な技術が光をもたらします。

2-2-2下水処理

日本の下水処理場に社会科見学で小学校の頃に訪問されたことあるかもしれません。写真は東京都の下水処理場です。デッカイですね。次に紹介したい例は、小さな下水処理の事例です。

芝浦水再生センター [9]

芝浦水再生センター [9]

所謂発展途上国に行かれたことがあり、川沿いを歩いたことがある方なら、鼻をつく下水の匂いを知っているかもしれません。上水道の整備すらままならない地域も多く、下水は処理されず川に垂れ流されています。予算やスタッフのスキルがないため、日本の様な下水処理場を整備することは難しいです。[10]

アペックスというNGOが技術を開発しました。インドネシアで手に入らない部品を、ヤシの繊維で代替しています。[11]また、この製品は、日本の従来品の6分の1以下のコスト・3分の1の電力で、4倍の効率を実現しています。

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画像はダイヤモンド・オンラインより引用[11]

2-2-3 ヘルスケア

予算などの問題から、医療インフラが整っていない地域でも、当然ですが、最先端の医療技術に対するニーズはあります。GEヘルスケアは中国の農村部に向けて、従来は高価で大きな製品であった超音波診断装置を小型化し、携帯型超音波診断装置を開発しました。[12]

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超音波診断装置(GEヘルスケア)

未解決の課題

ここまで、解決策が提案された課題を見てきました。以上の製品は多かれ少なかれ課題解決に貢献しています。ですが、まだ解決されていない課題もたくさんあります。ここでは、1つ提示したいと思います。それが第一回に掲載した、調理時の釜戸になります。前回紹介したように、3つの石を用いた釜戸は、エネルギー効率が低く多くの薪を必要とします。これらの薪は、主に子どもや女性が集めています。[13]毎日薪を集めることは多くの時間を必要とします。また、薪は無限にあるわけではありません。自然が再生産するスピードよりも早く、薪を回収してしまうと、森林破壊に繋がります。また、健康被害はかなり深刻で、世界中で年間150万人の死亡者がでています。[14]

上述の問題を解決するための改良型かまどが提案されていますが、まだ普及には至っていません。
あなたのアイデアと行動力が世界を変えるかもしれません。

今回の連載では、個別の技術に焦点をあてて、書いてきました。次回の連載では、「どうやって届けるのか」に焦点を当てたいと思います。

参考 (visited 2015/04/29)
[1]Small Is Beautiful: Economics as if People Mattered
[2]Mastering the machine revisited : poverty, aid and technology
[3]UTB JAPAN 貧困層とは(1) http://utbjp.blogspot.fi/2010/02/blog-post_09.html
[4]Out of Poverty 世界一大きな問題のシンプルな解き方――私が貧困解決の現場で学んだこと
[5]THE DEATH OF APPROPRIATE TECHNOLOGY I : IF YOU CAN’T SELL IT DON’T DO IT http://www.paulpolak.com/the-death-of-appropriate-technology-2/
[6]世界を変えるデザイン展 http://www.designother90.org/ 世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある
[7]なぜ日本企業は「ハイスペック」なのに失敗するのか? 世界24億人以上のニーズをつかむための「第3の選択肢」|世界を巻き込む。【エッセンシャル版】――日本のモノづくりで途上国のブルー・オーシャンをつかむために|ダイヤモンド・オンライン http://diamond.jp/articles/-/50261
[8]D-Light http://www.dlight.com/
[9]芝浦水再生センター http://www.gesui.metro.tokyo.jp/odekake/syorijyo/03_01.htm
[10]APEX Website http://www.apex-ngo.org/
[11]「ローテク=安かろう悪かろう」は本当か?――27年間、インドネシアの田舎で「適正技術」を実践する日本人に学ぶ「これからのイノベーション」|〈ものづくり〉は、まだ僕らを豊かにできるのか?|ダイヤモンド・オンライン http://diamond.jp/articles/-/41825
[12]リバース・イノベーションは、日本でどのような成果が出ていますか?【対談後編:GEヘルスケア星野和哉×小林喜一郎】|リバース・イノベーション講座|ダイヤモンド・オンライン http://diamond.jp/articles/-/26094
[13]Kopernik ビデオ https://www.youtube.com/watch?v=9FK_JCI2c3Q
[14]「技術で途上国の人々の生活を変える」NPOコペルニクの挑戦 http://www.thinktheearth.net/jp/thinkdaily/news/technology/986kopernik.html