チューリヒからのトビタテ便り3 〜スイス建築解剖学〜

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1 13.28.09
連載もついに第三回を迎えました! 本日の更新はチューリヒからのトビタテ便り3 〜スイス建築解剖学〜です。とうとう建築・街・自然・政治/社会が有機的に繋がるという意味が明らかになっていきます。濃すぎる記事を要チェック!

トビタテ便りとは

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

4月のトビタテ便りは3人のトビタテ生に書いてもらっています。本日の便りは、チューリヒにいる鈴木隆平さんから。本気で語る「建築」をお楽しみください。(第一回はこちら、第二回はこちら

はじめに

こんばんは。東京工業大学大学院のの鈴木隆平です。

三回目の連載となりました。まず少しだけ前回の記事をおさらいします。

・チューリッヒでは色彩建物高さなど街並を形成するものに対して市民の意思が強く反映されている。建築家にはクライアントだけでなく市民を納得させるだけのストーリーを構築する能力が求められる。(建築と街の関係性

・市民の意思を反映させるべく、スイスは連邦制直接民主体制を採用しており、行政と市民意思が相互に連関するような体制がとられている。

・市民はそれぞれ“我々が住む街(国)はこうあるべきだ”という明確なビジョンを持っているため、州や自治体は市民の声を聞きながらそれぞれの地域の特性を生かしながら都市の変容に対応しなければならない。(街と社会・政治の関係性

 

今回はチューリッヒの住宅の窓まわりに焦点を当てて「建築と自然環境の関係性」についてお話ししたいと思います。

チューリッヒの窓まわりには、シャッター(雨戸)・窓・暖房空調・窓台といった建築的要素が複雑に絡み合っています。

その窓周りの背景にはチューリッヒの気候が大きく影響しています。また、その窓回りが人びとの振る舞いを誘発するきっかけにもなっています。チューリッヒは年中湿度が低く冬には厳しい寒さが待っているということを頭の片隅に置いて読んでもらえると話がわかりやすいかと思います。

※ここでは何度か「チューリッヒの〇〇(窓、壁など)」という言い回しがでてきますが、他のヨーロッパの国々でも同じようなものを見かけます。特別チューリッヒらしい、というわけではありませんが、スイスの生活を語る上では外せない部分となっています。ご了承ください。

0. 目次

1. 寒さと戦う窓

  1-1. 鎧戸とアルミ製シャッター

  1-2. 気密性の高い窓

2. 窓の周りで生活を支えているもの

  2-1. 壁の厚さ

  2-2. セントラルヒーティングシステム

3. 窓の周りで起こる振る舞い

4. まとめ

5. 次回の記事

1. 寒さと戦う窓

家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居は、堪え難き事なり。(徒然草:五十五段)

知っている方もいると思いますが兼好法師が記した『徒然草』の中のフレーズです。

”家の作り・構造は、夏向けを基本とするのが良い。冬はどんな場所にも住むことができる。しかし、夏の暑い時期は、暑さを凌げない悪い住居に住むのは耐えがたいことである。”

ということを言っています。まさにその通りで、日本家屋は網戸や障子戸によって風通しが良いかわりに冬は隙間風が入ってきて少し寒いですよね。私たち日本人はそんなバックグラウンドをもった住宅に住んでいるんです。

しかしチューリッヒではその逆。住宅のあらゆる部材が冬の寒さをしのぐために工夫が凝らされています。

 

1-1. 鎧戸とアルミ製シャッター

まずは窓の外観からお話しします。チューリッヒの住宅で一般的な窓の写真をいくつかお見せします。

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a. 鎧戸を取り付けた窓1

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b. 鎧戸を取り付けた窓2

この観音開きのルーバー状の外付け建具は日本では鎧戸(よろいど)と言います。錣戸(しころど)、がらり戸などとも呼ばれます。

機能としては、他者の侵入を防ぐための安全性、強い日差しから守る遮光性、騒音などから守る防音性、建物の美観を向上させる装飾性などがあげあれます。そしてなにより冷気を室内に入れないための断熱効果があります。

チューリッヒではこの鎧戸を塗り替えたり、新しいものに変えたり、メンテナンスをしながら何十年も使い続けている住宅がたくさんあります。

一方で技術の進歩とともに新たな建具が普及していきます。それはアルミ製のシャッターです。

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c. シャッターを取り付けた窓1

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d. シャッターを取り付けた窓2

機能はほぼ同じです。メリットは安価部品交換がしやすく断熱性能がより高いということでしょうか。正直、美観の向上には繋がっていないと思います。逆にシャッターをおさめるために上部にボックスを取り付ける必要があるので少し不格好になっている気もします。

しかし新築の場合ではこちらのアルミシャッターの方が一般的で、建築家はこのアルミシャッター用のボックスをいかにうまく隠すかということが求められています。(現代建築に置いては鎧戸を採用すると、鎧戸の主張が強すぎてデザインの自由が奪われてしまうということもあると思います。)

e. オフィスビルのシャッター

余談ですが、なぜカーテンを使わないのか、と疑問に思う方もいるともいます。「夜は真っ暗にして寝たい」「夜はありとあらゆる騒音をシャットアウトしたい」と思うスイス人が多いようで、カーテンをつけている家庭でも必ず鎧戸やシャッターがついています。このあたりに価値観の違いを感じますね。

 

1-2. 気密性の高い窓

チューリッヒ(おそらくヨーロッパ全般)には日本でよく見られる引き違い窓や網戸というのもものはほとんどありません。

引き違い窓は開閉が容易で網戸と組み合わせることによって虫などの障害を遮りながら通風を確保することができます。しかし、逆に気密性が低いため寒さをしのぐためにはあまり良い窓とは言えません。

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f. 引き違い窓

一般的なのは開き戸です。ハンドルがついていて、ハンドルを回すことで窓が内側に開くというものです。日本でも開き戸はありますが、外側に開くものが多いと思います。なぜ内側に開くのかというと窓の外側には鎧戸やシャッターなどがあるためです。また窓は建具によってがっちり固定されるため隙間風が入る心配もありません。

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g. 開き戸

 

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h. ルーバーと組み合わせることで遮光しながら換気ができる

また、窓を内側に”開く”だけでなく“倒す”こともできます。5〜10度ほどしか倒れないので「少しだけ換気したいなあ」というときに便利です。また雨が降っているときでも倒し戸であれば雨が入ってくる心配もありません。

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i. 倒し戸

 

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j. 気分、用途によって倒すか開くか選択できる

さらに古い建物も含めてほとんどの窓がダブル(二重)ガラスになっています。最近ではトリプル(三重)が主流のようです。日本の住宅でトリプルガラスの窓はほとんど見ませんし、古い住宅ではシングルガラスが一般的です。これも気密性を確保するための工夫で窓を二重、三重にすることでガラスの間に空気層をつくることができ、その空気層が断熱材と同じ役割を果たします。

2. 窓の周りで生活を支えているもの

2-1. 壁の厚さ

日本のRC造(鉄筋コンクリート造)の住宅での外壁の厚さは200mm〜400mmが一般的です。構造自体が150~200mmあるのでそれにプラスして50~200mm程度の断熱材や外装材が足されるということです。

そこで今、住んでいるアパートの外壁の厚さを測ってみました。

かなり原始的な測り方をしているので数mmの誤差はあると思いますが590mmありました。

日本の一般的な住宅よりも200mm〜400mm厚いわけです。この厚い分はほとんど断熱材と言っても過言ではないです。実際に事務所のプロジェクトでも合計で断熱材が350mmという図面を書きました。この分厚い断熱材によって室内は寒さから守られているのです。

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k. 壁の厚さは590mm

 

2-2.セントラルヒーティングシステム

気密性が高い部屋では過度な暖房設備は不要です。

欧米ではセントラルヒーティング(全館集中暖房、中央暖房)という方式が一般的で、一箇所の給湯器熱源装置(ボイラーなど)を設置して、暖房が必要な各部熱をへ送り届ける暖房の方式です。メリットとしては、安全性が高く空気を汚さず騒音も無くメンテナンスの必要性がないということです。しかし暖めた空気を自然対流で循環させるため、断熱性の低い日本の住宅などではあまり向いていません。

l. セントラルヒーティングシステムで用いるラジエーター

実際に部屋にあるのはこのラジエーターのみで、特に部屋で厚着をすること無く冬を越すことができました。ラジエーターが窓の目の前にあるというのが一つポイントで、窓から入ってくる冷気をラジエーターによって防いでいるのです。

このラジエーターは冷房機能はありません。夏は冷房が無くても大丈夫なのか、という問題ですがそれはこれから夏を迎えないと何とも言えません。笑 ただチューリッヒは夏でも湿度が低いので直射日光さえしのげれば気持ちよい風が室内に入ってきます。外でも日陰は少し寒いくらいです。

エアコンが無くても生活できる理由は、壁や窓で温度変化から守られているだけでなくチューリッヒの気候が東京とは大きく違うということは忘れてはいけません。

3. 窓のまわりで起こる振る舞い

ここまで日本とは少し違った窓周りを見てきましたが、そこでは日本ではできなかったような振る舞いが生まれています。

600mm近くある外壁の真ん中に窓をとりつきれば、そこには300mm分アルコーブ(くぼみ)ができてしまいます。この自然発生的なくぼみを利用して多くの住宅で窓台が設けられています。窓が内側に開くためたくさんの物は置けませんが、片側の窓を空けるスペースを残しておけば残り半分は本を置いたり、植物を置くこともできます。

窓に寄っかかりながら本を読んだり、音楽を聴いたり日本ではなかなかできない振る舞いがそこには起きています

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m. 窓台を利用して生活するイメージ

4. まとめ

寒さ対策という名目を掲げ、シャッター(鎧戸)・窓・暖房空調・窓台といった建築的要素が、相互に連関しながらひとつの窓まわりをつくりあげていました。

なぜ断熱材がこんなに分厚く、窓が二重にも三重にもなっているのかといえば、もちろん防寒のためというのもありますが、湿度の違いというのもとても大きく影響しています。スイスには梅雨が無く、一年中安定して低い湿度を保っています。東京でチューリッヒのような断熱性の高い住宅に住むと家中カビだらけになってしまうでしょう。

つまり気温や湿度といった自然環境との関係性の中ででチューリッヒらしい窓まわりが生まれているのです。

またシャッター(鎧戸)は街並にも影響を与えるので、窓まわりは街との関係性に関与しているとも言えますね。

5.次回の記事

三回の連載を経て、建築・街・自然・政治/社会が繋がってきました。

最後の第四回では今まで取り上げられなかった関係性も含めて“関係性の相関図”をつくりたいと思います。

ご感想、ご意見などコメント欄に書いて頂ければ嬉しいです。

鈴木隆平

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