チューリヒからスイス建築解剖学

20140927-DSC_0343-4-199x300

1 13.28.09
本日の更新はチューリヒからのトビタテ便り2〜スイス建築解剖学〜です! 色彩、高さ制限、都市計画には市民の意思が最重要。1個の建築と街、街と社会・政治の関係性との関係を、チューリヒを舞台にトビタテ生が熱く語ります。要チェック!

トビタテ便りとは

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

4月のトビタテ便りは3人のトビタテ生に書いてもらっています。本日の便りは、チューリヒにいる鈴木隆平さんから。本気で語る「建築」をお楽しみください。

はじめに

こんばんは。東京工業大学大学院のの鈴木隆平です。

ニ回目の連載となりました。まず少しだけ前回の記事をおさらいします。

  • 私たちの生活に潜む様々な”関係性”を読み解いていくことで建築、都市を解剖していくことがこの連載の目的
  • チューリッヒの水辺には人びとがくつろぐために効果的にベンチや段差がしつらえてある(街と自然の良好な関係性
  • 関係性をつくりだしているのはチューリッヒの地理的特性、国民性、都市計画

今回は「建築と街の関係性」「街と社会・政治の関係性」についてです。

0. 目次

1. チューリッヒの街並

1-1. 色彩

2-2. 高さ制限

2. 都市計画と市民の意思

2-1. 連邦制と直接民主制

2-2. 街に対するビジョンと都市の変容

3. まとめ -チューリッヒの未来-

4. 次回の記事

1. チューリッヒの街並 

1-1. 色彩

まずはチューリッヒの街並の写真をいくつか見て頂こうと思います。

DSC_4142-11

a. チューリッヒ市内の大通りBardenerstrasseから

20141108-DSC_0637-6

b. チューリッヒ市内の大通りBardenerstrasseから

DSC_4124-10

c. Albisriederplatz周辺の住宅街

DSC_4150-12

d. Freihofstrasseの住宅街

建物の屋根や窓が統一されていてカラフルな街並、という印象です。また建物の高さが低く抑えられていて後ろに控える空や山、丘への視線が遮られていません。そして目抜きの通りがその山や丘をとても近くに感じさせます。

色は落ち着いたベージュや茶色、淡い黄色やグレーなどが多用されていることがわかります。この“チューリッヒらしい”色彩というのはとても重要で設計コンペティションなどでもこういた配色を中心にデザインがすすめられていきます。クライアントとしては街の色合いを崩したくないということです。これは単にクライアントの好みという問題ではなく、チューリッヒ市民全体の意見でもあるのです。(もちろん時には奇抜なアイデアが採用されることもあります。)

 

1-2. 建物の高さ制限

建物の高さですが、これはチューリッヒ市で規制がされています。自治体の建築規制(Article 9)によって市の西側や北側で特に強い規制が敷かれています。産業地区のAltstettenやOerlkonはhigh-rise area 1と呼ばれ高さ80mまで許可されています。このエリアに隣接するhigh-rise area 2,3では40mが最大高さになっています。

20140928-DSC_0422-5

e. 開発エリアの工業地帯 (Kleis 5)

チューリッヒの建築学生は20mを越えるチューリッヒの建物はhigh-rise(高層建築)である、と教わるようでそれを初めて聞いたときは驚きを越えて思わず笑ってしまいました。20mといえばマンションで言えば6階建て、オフィズビルでは5階分の高さです。東京の街並を考えてみればいかに低いかお分かりだと思います。

そんなチューリッヒで一番高い建物はスイスでも一番高い建物になっています。建築家Gigon Goyer設計のプライム・タワーPrime Towerです。高さは126mでチューリッヒのシンボル的建築となっています。ちなみに日本一高い構造物はスカイツリーの634m。ビルだと大阪のアベノハルカスで300m。東京だけでもプライム・タワーより高いビルが200軒ほど(2012年時点)あるそうです。

20140927-DSC_0343-4

f. スイス一高いビルのPrime Tower

DSC_0347

g. 高さ26mからチューリッヒ中心部を臨む

bldg4-1

h. 東京の高層ビル群

色彩の問題と同じように、建築の高さに関しても”チューリッヒらしさ”は重要で、たとえ法律の範囲内であっても周囲から突出して高い建物を計画するときにはその理由が必ず求められます。それは経済的な理由(店舗がたくさん入るのでクライアントが儲かる、など)ではなく文化的・社会的な理由、とでも言うのでしょうか。「この街を代表するアイコンが今後必要になる」であるとか「今後街が国際化をすすめるうえでは建物の高層化は避けられないが、この案なら景観を大きく崩すこと無くこの街らしい新たなランドスケープを描くことができる」などなど。そしてその言葉を体現するために図面やイメージパースペクティブが求められるのです。

空間的に素晴らしい、誰も見たことの無い、皆が感動するような建築をつくることは建築家にとって常につきまとう課題ですが、こういった街の未来に対して説得力のあるストーリーを構築することも建築家には求められるわけです。

2. チューリッヒの街並と市民の意思

2-1. 連邦制と直接民主制

一章で街並の形成には市民の意思が強く反映されているということを話しました。少しスイス全体の話に戻ってみます。

前回の記事では触れませんでしたがスイスは正式名称「スイス連邦」と名乗るだけあって連邦制を用いています。26からなる州が強い権限を持っていて、その配下にある2750の自治体も同じく強い権限を持っています。さらには世界で数少ない直接民主体制を取り入れてる国でもあります。重要な法律の決定では国民投票を行い、その結果によって議会が法律を制定します。

map

i. スイスの行政区画 (出典:統計データ/スイス連邦統計局©BFS /OFS/UST/SFSO)

 

スイスの都市計画を例にすると、連邦レベルの空間計画法と連邦法を基本法とし、州レベルの空間計画や建築に関する規制法と、地方自治体レベルの建築規制法に法的根拠があります。連邦レベルの空間計画法では、概念的な原則が示されるだけです。州の策定する空間計画で空間利用の戦略が立てられ、地方自治体が策定する土地利用計画で具体的な土地利用のゾーニングが定められます。しかし、この自治体の制定した土地利用計画で建設が計画されても住民の反対が強ければ建物が建つことはありません

「トップダウン」や「ボトムアップ」という言葉で簡単に片付けられるような仕組みではなく、州や自治体レベルの計画と市民の意思が相互に連関してはじめてチューリッヒという街が出来上がっているのがよくわかります。前章の色彩の話や建物高さの話でもそうでした。

 

2-2. 街に対するビジョンと都市の変容

スイス国民は、憲法改正や新法の案件、国際的な要件から地方自治まで全ての是非を国民投票によって決定する権利を持っています。国連への加盟、EUへの非加盟も国民投票で決められました。ここで重要なのは、市民がしっかり“我々が住む街(国)はこうあるべきだ”というビジョンを持っているということです。(中には「投票は毎回全部NOと書くと決めているんだ」なんて人もいますが。)世界中で、これほど多岐にわたる項目を全国民が直接投票で決定できる国はスイスくらいではないでしょうか。

現在スイスの都市部では、移入民の増加に伴って交通や教育に負担がかかり始め、2014年には移民規制強化に対する国民投票で賛成が過半数を占めました。しかしこういった移入民の受け入れに対して閉鎖的な有権者が確かに存在する一方で、都市部はますます過密化していくことが予想されます。激化する都市の変容に、アーバンデザイナーや都市プランナーも戸惑いを隠せない状況になっています。このような状況で、これから一体どういったものを拠り所にして都市のデザインをしてくか、というのが直近の課題になっています。

DSC_0337

j. 開発が進むPrime Tower周辺

3. まとめ -チューリッヒの未来 –

今後は州ごとの、もしくは更に小さな自治体の政策・計画というものがより重要になってくるでしょう。先にも述べたように、スイスには26の州、2750の自治体があり、それぞれの自治体は独自の都市計画を貫いています。一見同じような都市部でも、森林地帯が都市に融合されたバーゼル市やフランスとの連携が強いジュネーブ市など性格は様々で、地域の特徴を尊重したデザインを既存の市街地に介入させていくことが必要になるはずです。また、自治体同士で連携し、複数の自治体をまたぐような計画もできますし、近隣住区を主体にした計画というものも考えられます。それらの際に必要となる原理やビジネスモデル、社会的な取り決めは何なのでしょうか、そして建築家には何ができるのでしょうか。

建築単体を考えるのではなく、建築と街の関係性、そしてその先にある街と社会・政治の関係性まで踏み込んでデザインしていくことが新しい未来を切り開くきっかけになるのと私は信じています。

締めの言葉みたいになってしまいましたが、あともうひとつだけ。

今のチューリッヒの課題はなんなのでしょうか。それはずばり、都市の高密化生活の質の維持の両立です。人口が増える一方で建物の高さには制限があり、開発エリアも限られている。こうなると住戸を高密に積層させた低層・中層集合住宅というもののデザインに注目が集まります。しかし生活の質を落とすようなことは国も市民も望みません。バルコニーで楽しむ優雅なティータイムやプライバシーの守られた中庭、良好な日当りと通風など、従来からある慣習や人びとの振る舞いを残しながら新たに集合住宅をデザインすることは容易ではありません。

集合住宅のデザインと言う意味では日本は先進国であり、良い例も悪い例もそこにはたくさんあります。

23年間東京で過ごした経験と日本の建築に関する少しの知識を用いて、チューリッヒの明るい未来に貢献できるように日々の設計活動をしていきたいです。

20140920-DSC_0222-1

j. 2014年9月に竣工したKalkbreiteの集合住宅 (Müller Sigrist Architekten)

20140920-DSC_0240-2

j. 地上階はトラム車庫になっていて3階部に共有の中庭をもつ。スイスでは珍しいコーポラティブハウス。

 

4.次回の記事

次回はチューリッヒの住宅の窓に焦点を当てて「建築と自然の関係性」について読み解いていこうと思います。窓は単に通風や採光を確保するためのものでなく、外界とつながるもう一つの玄関でもあります。そこにデザインされた建築的なディティールには自然や歴史との関係性が隠れており、また人びとの様々な振る舞いを誘発させます。

20150328-DSC_4153

ご感想、ご意見などコメント欄に書いて頂ければ嬉しいです。

 

鈴木隆平

留学相談したい方は、Diverseasからどうぞ