チューリヒからのスイス建築解剖学

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1 13.28.09
本日の更新はチューリヒからのトビタテ便り1 〜スイス建築解剖学〜。トビタテ便りとは「世界中から届く気持ち悪いほど濃いい專門のお話」。建築事務所でガチインターン中のトビタテ性が語る、「関係性のデザインとしての建築」とは?

トビタテ便りとは

トビタテ便りの詳細についてはこちらのページをご確認ください。世界中に留学しているトビタテ生から、週に1度1ヶ月の短期集中連載を行ってもらっています。ルールは2つ。「留学先の写真を載せてもらうこと」と「普通の友達には話せないような濃ゆい専門の話を思う存分ぶちまけてもらうこと」です。

4月のトビタテ便りは3人のトビタテ生に書いてもらっています。本日の便りは、チューリヒにいる鈴木隆平さんから。本気で語る「建築」をお楽しみください。

はじめに

こんばんは。

トビタテ一期生の鈴木隆平です。

自己紹介については自己紹介記事にて詳しく書いてありますのでここでは簡単に。

氏名:  鈴木隆平

コース: 一期生/自然科学、複合・融合系コース

在籍:  東京工業大学大学院 建築学専攻 修士課程

留学先: Hosoya Schaefer Architects(建築設計事務所/チューリッヒ)

期間:  2014年9月〜2015年8月

多くの写真、そして乱文がゆえに記事が長くなってしまったので簡単な構成を以下に記しておきます。

1. 建築解剖学とは

2. 関係性のデザイン

3. チューリッヒの水辺

  3-1. リマト川とチューリッヒ湖

  3-2. 陸と水辺を繋ぐベンチ

  3-3. “座る”ことを促す段差

4. 次回の記事

1. 建築解剖学とは

サブタイトルに”スイス建築解剖学”とつけました。”建築解剖学”という言葉は私の造語です。解剖学というのは大辞林第三版によると

かいぼうがく【解剖学】

生物体の形態・構造・機能などを研究する学問。

と、あります。医学、形態学、生物学の言葉で一般的には植物や動物(人間を含む)を研究対象とします。

建築も、生物体と同じように外部形態と内部構造が複雑に関係し合っています。私は建築を解体することで、建築を構成する要素の配置、相互関係、構造などを明らかにできるのではないかと考えています。

今回のこの連載においても、スイスの建築を解体することで、日本とは文化も歴史も気候も違うスイスから何か日本に還元できたらいいなと思っています。

 

 2. 関係性のデザイン

“建築解剖”にあたって重要になってくるのは“関係性のデザイン”を読み解くことです。では何の関係性なのか、例をいくつか挙げてみます。

  • 人と人との関係性(コミュニケーションデザイン)
  • 人と街との関係性(コミュニティデザイン)
  • 建築と街との関係性(街並みのデザイン)
  • 街と自然との関係性(ランドスケープデザイン)
  • 住むことと働くことの関係性(職住近接、住商混合の建築計画)
  • 時間[過去・現在・未来]の関係性(文化・慣習を継承した工法・空間利用の提案)

などなど

括弧内のデザインはいわゆる”建築家”が携わることのできる仕事です。これらは建築単体のデザインに留まらず、政治や経済、交通、街並み、文化など様々な分野を横断したものになります。

そしてこういったデザインは必ずしもお金を生むとは限りません。”関係性”の豊かさは経済原理が強く働いている今の建築業界(そして私たちの暮らし方)に新しい未来を提示してくれるのではないでしょうか。

 

 3. チューリッヒの水辺

・チューリッヒの水辺は街の人びとの生活とは切っても切れない関係で、そこには歴史気候都市計画国民性が相互に連関しています。

・もっとざっくり言えば、水辺で過ごす時間行くまでの道のり見える景色、すべてが生活の一部としてチューリッヒ市民に共有されているのです。

「段差」「ベンチ」「街と自然の関係性」がキーワード。

a. リマト沿いに並ぶ街並みとデッキでくつろぐカップル

3-1. リマト川とチューリッヒ湖

スイスは“ヨーロッパの水瓶”と呼ばれており、ヨーロッパの淡水の6%がスイスに貯えられています。スイス全体の面積がヨーロッパの0.03%ということを考えれば水瓶と言われるのも納得です。それらの水はライン川、ローヌ川、イン川などの河川を経て北海、地中海、黒海に流れ込みます。湖の数は1,500以上を数えます。

また一方で“ヨーロッパの屋根”といわれるアルプス山脈とジュラ山脈が国土の約70%を占めています。ヨーロッパの屋根とヨーロッパの水瓶があればそこを流れるのは河川です。

b. リマト・チューリッヒ湖・トラム・山脈が 一体となった ランドスケープ

チューリッヒにもリマトLimmat(写真a)という河川が流れていて、街の見どころはこのリマト川、そしてそのリマト川が流れ込むチューリッヒ湖Zürichsee(写真b)に集中しています。

チューリッヒの歴史はリマトの歴史といっても過言ではありません。その歴史はチューリッヒがトゥリクムTuricum(ローマ人によって創建)と呼ばれていた紀元前15年の時代に遡ります。当時トゥリクムはガリア・ベルギカ(90年からはゲルマニア・スペリオル)とラエティアという地域の国境としてリマト川を行き来する交易の税関でした。2世紀頃には街として成立していたとの記録があります。

ミラノのように街によっては大規模な都市開発の際に河川を埋めてしまうような都市もあります。しかしチューリッヒでは河川は今でも人びとの憩いの場であり、街のシンボルなのです。

 3-2. 陸と水辺を繋ぐベンチ

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c. 湖沿いに連続して並ぶベンチ

まず、リマトやチューリッヒ湖などの水辺に設置されたベンチに注目してみます。

 写真cはチューリッヒ湖沿いに一直線に並べられたベンチ。ベンチが湖ぎりぎりに置かれることで陸と湖の境界を曖昧にしています。また背もたれが無く体の向きを自由に変えられるのも特徴です。

 写真dのベンチは対照的に等間隔で川沿いに並んでいます。川との距離はありますが他のベンチと離れてる分、個人の領域がより守られるため落ち着いてくつろぐことができます。

 写真eはリマト沿いの桟橋のベンチ。歩道と川の中間の高さに桟橋があり、まるで川の上に浮いているような感覚になります。

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d. 川沿いに等間隔に並べられたベンチ

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e.桟橋のベンチ

写真fは湖を臨むベンチが二列に並んでいます。ベンチの間隔が絶妙で、前列や隣が気にならず、また木々がつくりだす木陰が落ち着きのある空間を演出しています。

  写真gはベンチには座らず落下防止用の欄干に腰をかけている人たちの様子。やはり川に背をあずけるというのは気持ちよいですし、背後を人が通らないというのも安心感があります。欄干とベンチをつかって向かい合って座るような場面も容易に想像できます。

チューリッヒではベンチによって水辺との距離感座る向き人の密度がうまくデザインされています。また、“ベンチのように利用できるもの”についてもデザインの余地を感じることができます。

f. 湖沿いに置かれた二列のベンチ群

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g. 腰掛けとして使われる欄干とその脇に置かれたベンチ

3-3. “座る”ことを促す段差

ベンチだけでなく段差があるだけでも人は座りたくなるものです。公園の花壇に座ったり、広場の階段に座ったり、皆さんも経験があるのではないでしょうか。スイスの水辺にはそんな“座りたくなる段差”がたくさんあります。

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h. 川と遊歩道の間にある段差

写真hは湖近くのリマト川沿いの段差。段差ではご飯を食べたりカップルでおしゃべりをしていたり、休日によく使われているような気がします。

写真iはジル川というリマト川の支流沿いの段差。雨の降ったあとで川が相当濁ってますがそれでも人が集まってきます。ランチを食べてる人やペット連れの人が多く、平日休日関係なく使われています。

写真jは内陸寄りのリマト川沿いの写真。ここは学生や子供達が多く、勉強をしていたり本を読んでいたり、公園のように使われています。

段差の良いところは座る人の前後の距離が近くても段差によって視界が遮られないのでどこに座っても視界が広がるということではないでしょうか。

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i. ジル川沿いの段差

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j.内陸寄りのリマト川

※(番外編) ベンチと段差の合わせ技

k. 湖沿いの人気スポット

ベンチとその近くの段差をうまく使いこなしているチューリッヒの人びとの様子です。

写真k,lは写真cのすぐ近くです。休日は老若男女、日陰だろうが日向だろうが関係なく人で溢れかえっています。ご飯を食べている人もいれば、ただ座っているだけの人もいます。チューリッヒ市民が湖を愛しているのがよくわかる写真です。

写真mは逆にベンチの前の縁に人びとが座っています。ベンチが川から離れてしまっているので縁のほうが居心地が良さそうです。

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l.湖沿いの人気スポット

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m.ベンチが川から離れてしまっている例

 

このようにチューリッヒではベンチや段差が上手く使われ、街・水・遠くの景色が一体となった場所を数多く、そして様々な方法で演出しています。これも潮の満ち引きや荒波の恐れが無い湖ならではの演出でしょうし、曇りが多く、太陽のありがたみを日頃から感じているチューリッヒ市民の国民性(市民性)がなければ成り立たないのかもしれません。また、そもそも意図してデザインしたものではないのかもしれません。

東京にも荒川や隅田川など大きな河川がありますし、皇居の周りにあるお壕、池のある公園など数多くの水辺が存在します。チューリッヒで生活していると東京における街と自然の関係性をもっと親密に、意図的にデザインできるのではないかと思ってくるのです。

4. 次回の記事

次回は「建築と街との関係性」に焦点を当てて建築解剖を行います。チューリッヒの街並を構成・規制するもの、その背景、そこで起こる振る舞いなど、より複雑な関係性が潜んでいます。あともう少し短くまとめようと思います。笑

ご感想、ご意見などコメント欄に書いて頂ければ嬉しいです。

 

鈴木隆平