東京大学の学生プログラマーがシリコンバレーのスタートアップで百戦錬磨の仲間と戦えるようになるまで

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初めまして。トビタテ3期で、シリコンバレーに留学していた安田洋介と申します。
Exploratoryというソフトウェアのプロダクト開発に携わっていました。

自己紹介サイトがこちらにありますので、気になった方はどうぞ。

目次

  1. なぜ留学しようと思ったか
  2. 留学でしたこと
  3. 留学で得たもの
  4. 最後に

なぜ留学しようと思ったか

僕には、障害を持った兄がいます。日常生活に大きな支障を来す程ではないのですが、軽度の知的障害を持っています。現在、施設に入り自治体のサポートを受けながら、農作業をしています。そのような兄を持っていたこともあり、僕には1つ、ずっと考えていたことがあります。
「どのような人でも、価値を生み出していける社会に出来るのだろうか」

兄は、働いてはいるものの、それだけでは生活できていません。また、働くことが出来ないとされてしまっている障害者の方も多くいることを知っています。そういった人々は、公的な資金で、つまり、みんなから支えられて生きています。社会における生産、消費という見方で言えば、彼らの価値はマイナスになってしまっているということになります。

もちろん、僕という個人にとって、兄はかけがえのない価値のある存在です。何かと僕がどうしているのか気にかけてくれていて、純粋な愛情を感じることがよくあります。兄の、そういった純粋な感情表現や、兄の存在そのもの等から気付かされたことはとても多く、感謝しても感謝しきれないと思っています。

しかし、「障害者なんていなくなってしまえばいい」という人がいる、また、「社会の負担になっている」ということを重荷に感じる家族がいることも事実で、それに対して客観的に否定することは困難です。僕個人が感情の上で受け入れるのではなく、みんなが客観的な視点からも受け入れられるようにするには、彼らも社会に価値を提供出来る存在であるということを証明するのが必要なのではないかと思っています。

テクノロジー

僕は、この状況を解決しうるとしたら、つまり、「どのような人でも、価値を生み出していける社会」を創れるとしたら、鍵になるのはテクノロジーなのではないかと思っています。テクノロジーは人に、不可能だったことを可能にする力を与えます。足を失ってしまっても歩けるようにすること、地球の反対側にいる人と話をすること。そして、それは人々に自信尊厳を与えてくれます。

歩行を支援する、ロボットスーツ by Prof. Sankai, University of Tsukuba / CYBERDYNE Inc.

歩行を支援する、ロボットスーツ by Prof. Sankai, University of Tsukuba / CYBERDYNE Inc.

同じように、「これまで価値を生み出せていなかった人が、価値を生み出せるようになる」ということがテクノロジーによって実現しうるかもしれないと思っています。その思いから、テクノロジーが人の可能性を広げられるよう発展していくために貢献していきたいと考え、工学を学んできました。

シリコンバレー

シリコンバレーは、テクノロジー産業の世界的中心地であり、次々と世界を変えるような技術とともに新しい会社が生まれています。
この地については、ここに詳しいブログがあるので、興味が有る方はどうぞ。

そこでは、多くの人が未解決の課題を、主にテクノロジーを用いて解決しようと、試行錯誤を繰り返しています。僕も、先に述べた困難な課題を解決に向かわせるためには、この地に赴き、経験を積むことが必要だと思って、留学することを考えました。

留学でしたこと

Exploratory.ioという、データ分析ツールを開発しているスタートアップに、エンジニアとして参加しました。僕が参加する前のメンバーはたったの4人でした。他の4人のメンバーは、Oracleというシリコンバレーの大きなIT企業で20年ほど勤めていた、とても知識、経験の豊富な人達でした。写真を見て分かる通り、全員日本人ではあるのですが、10年以上シリコンバレーで過ごしている人たちで、プロダクトで使われる言葉、テキスト上でのやり取りは英語で行われていました。

プロダクトリリースのお祝い

他のメンバーの写真(プロダクトリリースのお祝い時)

僕は、バイトや短期的なプロジェクトでエンジニアをしたようなことはあっても、複数のエンジニアと深くディスカッションをしながら開発を進めていくというのは、ほとんどありませんでした。さらに、年齢も大きく離れていることもあり、はじめの方はどうコミュニケーションをとりながら進めるべきなのかに戸惑いがありました。また、プロダクトそのものも、僕がこれまで経験したことのない技術も多く使われており、なかなかプロダクトのコアな部分に関われませんでした。

それでも、少しずつタスクを切り分けながら僕の出来る範囲を割り振ってもらい、それをこなしながら徐々に使われている技術の知識や、どうやってチームの中で仕事をこなしていくかを学んでいきました。そして、少しずつプロダクトの中でも重要な部分の開発に関われるようになっていきました。

そして、しばらくしてから、とても重要なことをリーダーから教わることになります。リーダーは、Oracleでエンジニア、コンサルタント、プロダクトマネージャーなどの様々な仕事をこなしてきた人で、とても鋭く、日本人離れした独特な視点を持っている人です。たくさんの重要なことを教えてくれましたが、いま紹介するのはその中でも一番影響を受けたアドバイスです。

「多くの人は与えられた立場の中で何をすべきか考える。でも、もし望んでいる立場、なりたい自分というのが、その先にあるのであれば、その立場だったら何をするべきかを考え、行動するのが一番早く、確実な道だ」

これは、ある程度、与えられたタスクがスムーズこなせるようになってきた時期に言われたものでした。インターンとして、「お世話をしてもらってる」立場で行くのか、一人の「立ち上げメンバー」としてやっていくのかを自分の中ではっきりさせたほうが良いという文脈の中で言われました。もし、僕が後々、自分自身で新しいサービスを作って社会を変えていくようなことも視野に入れているのであれば、このプロジェクトでも自分が新しいものを作り上げていく一角を担っているという覚悟を決め、自分自身がプロダクトを作り上げていく1つの推進力になるべきだということでした。

このアドバイスを受けてから、どうやったら自分がこのプロジェクトで価値を発揮出来るか、どういうスタンスで取り組めば良いかということを深く考え始めました。その中で、取り組んだのは以下の3つです。

意思決定に積極的に関わる

チーム内での存在感を大きく左右するのは、どれだけ意思決定に関わっているかということです。それは、責任とプレッシャーを伴うものであり、他のメンバーが知識も経験も豊富な人達なので、そこに関わっていくには勇気が入ります。しかし、最初はあまり発言など出来なくても、積極的にミーティングに参加し、他のメンバーのものの見方、考え方などを真似していきました。すると、少しずつ意味のある発言を出来るようになり、自分の意見がプロダクトに反映されることも出てくるようになりました。

大学で学んでいた分野を活かす

大学では、自然言語処理といって、コンピューターに自然言語、つまり人が日常に使っている言葉の分析をさせる分野を学んでいました。そして、僕らのプロダクトの中にも、そのようなことが出来る機能を入れていこうという話が持ち上がったので、その機能の開発を中心になってやり始めました。この分野については、他に詳しいメンバーもいなかったので、僕が中心となり、他のメンバーとのディスカッションを行いながら設計から実装まで行いました。この機能については、ユーザーからの反響も大きく、このプロジェクトの中で一番価値を発揮出来たところなのではないかと思っています。
ブログにまとまっているのですが、それに反応してくれた、ブラジルのユーザーのツイートです。現在オリンピックが行われているブラジルの首都のブラジリア市の、Chief Data Science Officer、つまりはデータに関することは全てが彼のところに集まってくるというとても影響力のある方で、リリース以来の熱狂的なユーザーの一人であるRommelという方です。

余談ですが、プロダクトには世界120以上の国からアクセスがあって、日本で日本語のプロダクトを作っていては経験出来ないスケールの大きさを味わうことが出来ました。

チームの中での役割をもつ

チームのメンバーがたったの数人という状態では、どうやっても、「誰も詳しくはないけどやらなければいけないこと」というのが出てきます。僕らの場合、Rというプログラミング言語を内部的に使っているのですが、これについてものすごく詳しいという人がメンバーにいませんでした。そこで、僕はこの言語について学び始め、改善出来るような点を探していきました。そうしていくうちに、Rのことだから、僕に聞いてみようということが起きるようになっていきました。そして、途中からはプロダクトの内部で使われているRのライブラリの開発を僕が中心になってやるようになりました。これは、日本のR言語によるデータ分析の業界では有名な瓜生さんという方から、このプロダクトの秘伝のタレ認定されることになります笑。 

このようなことをしていくうちに、存在感が出てきたというようなことを言われるようにもなっていきました。そして、自分の中でもチームの中に入って貢献している実感が湧いてくるようになり、さらに自分の出来ることを見つけていくというような良いサイクルが回るようになっていきました。

そうして、この留学期間が終わっても日本から一緒にやっていこうということを言ってもらえるようになりました。ということで、このプロジェクトはまだまだ現在進行形です。まだまだ僕自身にも、プロダクト自体にも多くの課題が待ち受けていますが、“Data is everywhere for everyone”というVisionに向かってまだまだ頑張っていきます。そして、ゆくゆくはシリコンバレーのオフィスに転勤というのを考えています。それだけ、このスタートアップの持っているポテンシャルは高いと思っているし、シリコンバレーも、そこに住みたいと思うくらいに魅力的な場所でした。

留学で得たもの

この留学で得たものは、数えきれないほどありますが、特に大きかったと思うものをピックアップしてまとめようと思います。

プロダクト開発の経験

プロダクトを開発していく上で重要な視点が養われました。具体的には、

  • どういった目線でプロダクトを見て、改善点を探していけば良いのか
  • 開発におけるプロセスを改善していくために、何をすれば良いのか
  • どのような意識、方向性を開発のチームで共有していけばよいのか

こういった力は、実際に開発の現場で経験を積まないと身につかないものだと思うので、このタイミングで、経験豊富な人たちに混ざって取り組むことが出来て、非常に幸運だったと思います。

プログラミング技術

実際のところ、多くの時間はプログラミングを書くことに費やしたので、その技術もかなり培われました。特に言語で言うと、javascriptRです。もともとはpythonという言語をよく使っていたのですが、開発していたプロダクトが、ユーザーインターフェース(画面がどう表示され、同反応するかを司る部分)を作るのに、javascriptという主にブラウザで機能する言語。裏で実際に解析を担う、Rというデータ分析のために作られた言語を使っていたので、その2つを特に学びました。

Rは特に、日本での知名度、使用事例はまだまだのようですが、アメリカ、シリコンバレーの方では、ユーザーがものすごい勢いで増えているようです。

手前味噌ですが、以下のチャートはインターン先で作られたプロダクトで作られたものです。スタックオーバーフローというプログラミングQ&Aサイトでどのプログラミング言語が盛り上がってきてるかをチャートにしたものです。Rが圧倒的に最近になって盛り上がってきてるのがわかりますね。

このデータに興味がありましたら、こちらにアクセスしていただけると、データがアップロードされているページを見れます。そこで、どのようなデータを、どのように加工してこのチャートが作られているか見ることが出来ます。サインアップをして、プロダクトをダウンロードしていただけると、そのデータをインポートし、自分でもこのデータを解析してみることができます。質問などありましたら、ご気軽にご相談ください。

日本にも、Rのコミュニティやカンファレンス等があるので、是非帰ったら、そのコミュニティに入って、更に研鑽を積みたいと思っています。また、Rはオープンソースという、実力さえあれば、誰でも開発に貢献出来るソフトウェアなので、それに貢献出来るくらいの力をつけたいと思っています。

セルフマネジメント

「スタートアップでインターン」というと聞こえは良いかもしれないですが、スタートアップは大体、滅茶苦茶忙しいので、懇切丁寧に教えてくれたり、管理してくれたりということはまずありえません。出来るだけ早く、自己管理が出来るようになることを求められます。まずは何を、いつまでに、どうやってということを自分で考えていく。そしてそれをチームとすり合わせる。そして、本気でそれに取り組む。言うは易し、行うは難しで、完璧に出来るということはまずあり得ないですが、メンバーから最後に、「胸を張っていいくらい、よくやったと思うよ」という言葉をいただけたので、他のメンバーから認められるくらいには出来ていたと思っています。

最後に

リラックスタイム

ちょっと脇道に逸れますが、シリコンバレーの周辺には、綺麗な場所がいくつもあって、友人やインターン先の人とハイキングするようなことも何度かありました。基本的にいつも天気がいいので、年中、好きなときにハイキングに行けます。

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トビタテの友人とヨセミテ旅行

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テネシーバレーにてハイキング

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ナパにてプログラミング中

シリコンバレー周辺のハイキングコースはここによくまとまっていますので、興味があればどうぞ。ものすごくたくさんあって、僕も行ききれなかったです。

おおよそどんなスタートアップも、成功しようと思うとものすごく働かないといけない(みんなで、夜11時から新しいリリース用のソフトウェアをテストする時もありました…笑)ので、こういったハイキングコースのように、リラックスして回復するためのところが、シリコンバレーを支えているんだろうなということも感じました。

謝辞

この留学は、期待の3倍、4倍は良いものでした。幸運なことに良い出会いに恵まれ、良いプロジェクトに関わる事ができ、良い経験を得ました。

この留学を実現する大きなサポートをしてくれたトビタテ留学ジャパンと、Exploratoryと繋がるきっかけを作ってくれ、この文章のレビューをしてくれたKo Hidetaka、そしてExploratoryのメンバーの皆さんに、特に感謝をしたいと思います。

読んでくださり、ありがとうございました。
ではでは

この人に、留学相談したい方は、Diverseasからどうぞ